史上最高の小説の一つ : ジョージ・オーウェル 「1984年」
世界最高の文学作品は何か?
様々な答えがある。その中で必ず上位に入る傑作が、この作品「1984年」だ。
- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
- 購入: 38人 クリック: 329回
- この商品を含むブログ (352件) を見る
イギリスでは「読んだことないけど読んだふりをしている本ランキング」で1位に輝いたこの本。1週間ほどかけてようやく読み終えたので、感想を書いていく。
あらすじ
舞台は、ビッグ・ブラザーというカリスマに率いられた党が支配する"オセアニア"という国。ある程度の知能を持つ人の家には"テレスクリーン"という監視カメラのような機械が設置されており、彼らがおかしなことをしないよう、生活の全てを党に監視されていた。
主人公のウィンストン・スミスは公務員。党にとって都合の悪い情報を改変する仕事をしていた。しかし、実は彼は、密かに党への不満を抱いていた。
本当にこの社会は幸せなのか?もっと良い社会があるのではないか?
そんな彼は、同じことを密かに思っていたジュリアという女性に出会い、2人で、党の打倒を目指す同盟に加入する。
この本の中での世界地図 (ピンクがオセアニア)
解説
この話は大まかに言えば、「近未来の独裁的管理社会に違和感を抱いた2人の男女の物語」である。
独裁的管理社会とは俺が勝手に作り出した表現だが、要するに、国家が国全体を完全に支配していて、しかも国民一人一人の生活も完全に監視・管理している社会(そこに思想や表現の自由はない) と言ったところである。
「それって社会主義やん」と解釈した人たちは、この本を「社会主義を批判した小説」と考える。実際、この本は社会主義批判のバイブルとして使われた過去がある。
ただ、実はジョージ・オーウェル自身は穏健な社会主義者、すなわち「民主主義を取り入れた社会主義」こそ最上だと考える人だった。(確か昔日本にあった民社党はこの考え方をとっていたはず。)
そう。この本は、本人も言うように、決して社会主義そのものを批判した本ではないのだ。
彼が批判したいのは、あくまで"独裁的な社会主義"なのである。
これがどのようなものかは、ここで説明するのは控える。(というか難しい)
この本を読めばわかるだろう。ゾッとするゾ。
感想
重い。けど面白い。いつかまた読もう。
この本、厚さはそこまででもない。"ちょい分厚い"レベル。何冊かに分かれたりもしていない。一冊だけ。たしか400ページくらいだったかな。そこらへんにあるちょっと長めの小説と、一見したところなんら変わらない。
ただし… 文字数がエグい。ほぼ全ページに文字がぎっしり詰まっている。多くの小説では下の方がスカスカだが、この本はぎっしり。(しかも恐ろしいことに、これだけ長いのに無駄がないのである…)
この文字数に加えて、語彙や表現の難しさも追い打ちをかける。難しく、スラスラ読めない箇所が結構ある。特に中盤〜終盤にかけて20ページ近くに渡って載せられている、同盟の教典(通称"寡頭制集産主義の理論と実践")の部分は、心が折れそうになる。もはや政治学、社会学の専門書なのだ。ただ、勉強になるので俺は読んだ。(この本を出版する当時、出版社側はこの部分を削除したかったそうだ。これに対しオーウェルは「この部分は欠かせない」と断固反対し、結局は削除されずに発売されたという経緯がある。…正直、出版社の気持ちもわかる。)
幸いストーリーの構成はシンプルで、物語の構造がわからないということにはならない。流石にそこまで複雑にすると、読むのが嫌になるだろう。この辺りの匙加減は絶妙だ。
さて、「1984年」はそんな小説だが、不思議と先を読みたくなる。適度に恋愛要素やアクション描写、芸術的な展開があって飽きさせないし、イギリスが生んだ天才作家ならではの表現力や人間描写、さらには社会風刺などは、読んでいて非常に勉強になる。しかも「うわ〜マジか〜」となるようなまさかの展開もあったりする。
だがなんといっても、最も大きな理由は、あまりにも強力な独裁政権に反旗を翻した男女がどのような運命を辿るのか、それが気になる、ということであろう。
読めばわかる。敵が強すぎることに。これが現実化したら恐ろしすぎる。流石にここまで行くことはないのでは… と思わないこともないが、一概にありえないとは言えないのも事実。
結末は言わないでおこう。割と有名なので俺はだいたいの内容を知っていたし、知っていても楽しめたが、知らない方がより楽しめると感じた。
結末や、最後についている付録から生まれた都市伝説、設定自体について色々な解釈がある名作だ。
さて、読みたいと思った人もいるのではないだろうか。いてくれると嬉しいな。
しかし、この本を読むにはある程度の読解力、語彙力が必要だ。それが無ければ初めの数ページで嫌になるだろう。イギリス人が「読んだことはないけど読んだふりをしている」のも、「読みたいし読んでおくべきだとわかっているけど挫折してしまうから」だろう。
更に、(小説を読んでいるとは思えないほど頭を使いながら)序盤をクリアしても、真ん中あたりでまた辛くなる。前述した「もはや政治学の専門書」の部分とか。
だが、最後まで読む価値はあると思うので、一度読み始めたら是非最後まで読んでみてほしい。長いとはいえ、隙間時間を見つけて少しずつ読めば1週間ちょいで読み切れる。なので購入はせず、図書館で借りるのもアリ。
※ただ、この本は一度読んだだけでは完全には理解できない。読むことに必死になってしまい、色々と深く考える余裕がない。なので、買った方が良いと思わないこともない。 読み切れる自信がある人は買っても良いかな…? まあ自己責任でお願いします。結構高いし難しいし話自体も「途轍もなく面白い!」というわけではない。だが世界最高級の小説であることは間違いない。
理想はブックオフかな。うん。人気作だから滅多に置いてないけど。そういや池袋のブックオフには1冊だけあったな。
余談
以前、Amazonが販売している電子書籍Kindleで、読者の書棚から一冊の本が消えたことがあった。本が消されてしまう。まるでこの本に見られるような光景である。面白いのは、この時消された本が、他ならぬ「1984年」だったこと。(ただのAmazonのミスらしい)
余談2
映画好きなら、この本を読んでいて「未来世紀ブラジルそっくりやん」と思うだろう。
もちろん先に発売されたのはこの本。30年近く先かな。「未来世紀ブラジル」はこの本の映画化作品だという説が有力。実際、監督のテリー・ギリアム自身も、この本から着想を得ていると認めている。
この本にあるいくつかの非現実的な部分を少し現実的にしたような、そして、強烈かつ独特のセンスを醸し出す映像で描いた、そんな映画が「未来世紀ブラジル」という印象。
あくまでも「着想を得た」レベルなので、被っているところはさほどない。全体を見たときに「似てるなー」と思う程度。片方を既に知っていても、もう片方を普通に楽しめるのでご安心を。
どちらを先に味わうかは、ご自由に。
If you kept the small rules, you could break the big ones.
小さなルールを守っていれば、大きなルールを破ることができる。
ジョージ・オーウェル (イギリスの作家)