アジアカップ制覇が意外に難しい理由
テレビで「アジアカップ制覇へ!」というCMを観ることが増えた。
多くの人はこう思うだろう。
「アジアなら優勝して当然だろ? 大げさだなぁ〜」
…確かにW杯で世界ランク一桁のチームを相手に熱戦を繰り広げたことを考えれば、アジアで苦戦することが不思議に思えるだろう。
しかし現実はシビアだ。日本はアジアカップで毎回大苦戦している。
もちろん、イラン、韓国、オーストラリアは日本と互角だから
というのが最大の理由だ。だがそれだけで終わったらここまで読んでくれた方々はブブゼラを使って大ブーイングをしたくなるだろう。
…なぜ、上記3カ国以外の相手にも苦戦するのか。それについて考察したので、ぜひ読んでみてほしい。
まず真っ先に挙げられるのが、
サッカーというスポーツは、番狂わせが起きやすいから。 と言うものだ。サッカーは動き方に制限がないので、極端な言い方をすれば、全員で守ることができる。なので、フランス代表がルクセンブルク代表から1点も取れないなんてことが頻繁に起きる。
このメンツでね。
次に考えられるのが、アジアカップはW杯の半年後に開催される。と言うことだ。
この期間の短さは、意外にシビアだ。
ドイツ代表やウルグアイ代表のように、監督も主力もほとんど変わらないのなら、特に問題ない。しかし、日本代表はW杯後に監督を代えるし、選手も新星を選ぶ。特に今回の日本代表は、監督が森保一に代わったし、(W杯にベテランばかりで挑んだこともあって)メンバーも大幅に代わっている。主力で代わっていないのは大迫、酒井宏樹、長友、吉田くらいだ。
当然、戦術も多少代わっている。攻撃では単独での仕掛けを積極的に推奨し、守備では前線からプレスをかける。そして、ボールを奪ったら縦に速く攻撃に切り替えるようになっている。
認めたくない人も多いだろうが、基本的なスタイルはハリル流に近い。(ハリルよりも選手のアイデアを尊重しているが。)
6月にW杯が終わってから、これだけ色々と代わった。その半年後に迎えるのがアジアカップ。ゆえに、不完全な状態で臨まざるを得ないのだ。
でもそれは他国も同じじゃね…?
そこで大事になってくるのが、次の理由だ。
他国が日本戦に全力を注いでくる。
これが非常に厄介。
考えてみてほしい。日本代表はアジアカップのグループステージや決勝トーナメント1.2回戦に全力を注ぐだろうか? 相手の戦術を徹底的に研究し、試合で全力を出し切るだろうか?
そんなわけがない。本気になるのはせいぜい準決勝、決勝くらいだ (展開次第では鹿島戦のレアルのように途中からガチになる可能性もある)。短期決戦では体力の温存が不可欠であり、毎試合全力を出していたら、肝心なところで体力が切れるからだ。
建前では「一戦一戦勝ちに行く」「目の前の試合に全力」と言っていても、内心では
「こんなところで体力を使い切るわけにはいかない」という思いがあるはずだ。なぜなら、日本代表の目標は「優勝」だから。
その一方で、日本代表と対戦するチームは
「日本戦=決勝戦」という気概で戦ってくる。
なぜなら、客観的にみれば、日本戦が最後の試合になる可能性が高いからだ。
「日本に勝ちたい。もし勝ったとしてもその次のことはあまり考えてないケド。」という、いわばW杯での日本代表のような心境だろう。
(ちなみにW杯でのベルギー代表は、「次のブラジル戦に向けて力を残しておきたい。日本相手に全力なんか出せないよ。」という精神状態だった。前後半の動きの変わりようを見れば明らか。)
よく言われる"チャレンジャー精神"もある。失うものがないので、余計なプレッシャーを感じずに思い切って戦えるのだ。このメンタル面での優位性は非常に大きい。近年は日本代表もメンタル面が大きく改善されたように思えるが、それでもチャレンジャー精神で思い切って掴みかかってくる相手は厄介だろう。
このように、アジアカップでの対戦国は、日本戦に全力を注ぐのだ。対策は徹底的にするし、試合にも決死の覚悟で挑んでくる。「失うものは何もない」「勝てたら大手柄だ」「これが我々の決勝戦だ」という厄介な精神状態で。
しかし優勝候補の日本・イラン・韓国・オーストラリアの四カ国は、余力を残しながら戦わなければならない。このハンデ(?)は意外に落とし穴だ。
さて、ここまで書いてきたことをまとめると、日本代表は
・常に"弱肉強食"というわけではない、サッカーというスポーツの性格
・新チームになってから半年しか経っていない(色々と不完全な状態)
・相手は日本代表を徹底的に研究し、日本戦を事実上の決勝戦と捉えて全力で戦ってくる
という3つの壁を乗り越えなければならないのだ。
だからアジアカップは厳しい。
一見似たような状況に見えるW杯最終予選は、途中で戦術や選手(場合によっては監督)を代えることで、相手の対策をチャラにすることができる。例えばハリルホジッチはロシアW杯最終予選にて途中から岡崎・本田・香川を外し、大迫、久保、乾を中心にした別チームを作り上げた。
スポンサーからは顰蹙を買ったようだが、これで日本代表は生き返り、無事W杯予選を首位で突破した。
しかし、アジアカップではこれができない。なぜなら短期決戦だから。選手や戦術を大幅に代えることは当然出来ないし、監督も変えられない。何より、修正が必要だと確信した頃にはもう敗退している可能性がある。(怖っ)
というわけで、ここでこの記事も修正する。日本代表がアジアカップで苦戦を強いられる理由は、正確には4つあるという風に。
・常に"弱肉強食"というわけではない、サッカーというスポーツの性格
・新チームになってから半年しか経っていない(色々と不完全な状態)
・相手は日本代表を徹底的に研究し、日本戦を事実上の決勝戦と捉えて全力で戦ってくるが、日本は先を見据えて余力を残しながら戦わなければならない
・途中で招集メンバーを入れ替えたり、戦術を大きく変えたりすることができない
※さらに付け加えると、「中東の笛」もある。今回の舞台はUAEだ。近年は昔ほど露骨では無くなっているし、VAR導入によって、重要な場面での誤審は減ると思われる (実際、鹿島はそれでレアル戦のゴール取り消しを免れた)。だいぶマシにはなるだろうが、やはり東アジア勢にとっては厄介な敵だ。
※2 そして、日本代表がちょうど世代交代を図っている最中というのも大きい。何が何でも勝ちに行くなら乾、長谷部、高徳(後の2人は引退宣言をしているが呼び戻せないこともない)あたりを呼んだはずだ。だが現実にはそうしていない。迷ったら若手を選ぶという選考スタイルだ。日本人は25〜32歳あたりでピークを迎える選手が多いため、今回のように25歳以下の選手が多い若いチームはまだまだ発展途上といえる。
だが、目先の勝利よりも未来への投資を選んだということだ。W杯で出来なかった未来への投資を、アジアカップで果たそうということなのだろう。無理やりな埋め合わせ感は否めないが、ここまでド派手に世代交代を図った森保一の決断を、俺は強く支持する。
まとめ
・常に"弱肉強食"というわけではない、サッカーというスポーツの性格
・新チームになってから半年しか経っていない(色々と不完全な状態)
・相手は日本代表を徹底的に研究し、日本戦を事実上の決勝戦と捉えて全力で戦ってくるが、日本は先を見据えて余力を残しながら戦わなければならない
・途中で招集メンバーを入れ替えたり、戦術を大きく変えたりすることができない
・中東の笛 (審判がやたらと中東のチームに有利な判定をすること。今回の舞台も中東なので可能性はある。)
・日本代表は思い切って世代交代を図っている最中 (ベストメンバーより、若い選手の招集を優先させている)
「アジアカップなんて優勝して当然」という考え方は、非常に甘い。サッカーをある程度知っていれば、まず言わない愚見だ。
実際に、記者からもサッカーファンから広く支持されていたアギーレJAPANは前回大会でベスト8に終わった。(選手がシュートを外しまくったのも大きいが)
ザックJAPANが前々回に優勝出来たのは、あの当時の日本代表が黄金期だったことが大きい。そりゃあ、あの当時のノリに乗っていた日本代表ならねぇ…と。それでもカタール相手に1点リードされて、なおかつ日本は10人 というシチュエーションで戦ったりと、かなり苦戦した試合もあった。(川島の退場や伊野波の劇的な決勝ゴールを覚えている人も多いのではないだろうか)
※裏話…当時の長谷部曰く「なぜ、ディフェンダーで、しかも"前に行くな"と監督から指示を受けていた伊野波が、あそこにいたのかわからない笑」とのこと。これもサッカーの面白さ。
思えば、あの大会は韓国にはPK戦で、オーストラリアには延長戦でなんとか勝ったというのが実情だ。セルジオ越後の「90分では勝てていない」という冷めた意見は、当時こそ「空気を読めジジイ」と散々非難されたが、今考えてみれば間違いなく正論だ。
さて、今大会の日本代表は、史上初と言っても過言ではないほど「個で仕掛けられる(単独でドリブル突破できる)」選手を揃えたかなり期待できるチームだ。若いし。
しかし、アジアカップでは対戦相手が全員で守備をしたり、(最近はあまり見ないが)ラフプレーで故意に怪我をさせにきたりと、とにかく日本代表に勝つために死力を尽くしてくる。
さすがにW杯よりも難しいとは言わないが、実は簡単には勝てない大会だということを、知っておいてほしい。
Success is no accident. It is hard work, perseverance, learning, studying, sacrifice and most of all, love of what you are doing or learning to do.
成功は偶然の産物ではない。成功は、ハードワーク、我慢強さ、学び、勉強、犠牲、そして何より、今やっていることあるいは出来るように努力していることを愛することによってもたらされる。
ペレ (元サッカー選手。サッカーの王様)